2015年8月9日日曜日

心得 第百 「甲冑新調の際は小道具一式をも」

武具の用意は日ごろからの一項で「いつ何時の点検にもあわてぬよう」から続くものである。

《ところで、小身の武士が新しく鎧、兜を用意するという場合、それについての心得というものがある。
たとえば、黄金三枚の代金で具足一領の支度をする計画であるとすれば、そのうちの三分の二を甲冑の代金にあて、残った金子によって肌着、股引、下着、下袴、上帯、下帯、上着、鞭、軍扇といった軍装一式、それから腰桶、腰苞、面桶、打ちがえ袋、水筒、水呑といった食料飲料用具などのこまごまとした小道具類に至るまで、一人前の武士の装備として何一つ不足するものがないように、品の善し悪しにかかわらず甲冑と同時にひととおり用意してしまうことが大切である。
そのわけはといえば、一般に甲冑については、だれしも持たねばならぬものと承知しているために、身分以上の出費をしても仕立てさせて所持するものだが、そのほかの小道具類については、いつでも用意できるものと思って油断しているために、いつまでも放っておいて、いざというときになくてはならぬ小道具類を、同時に支度しておく心掛けが大切だというのである。
次に、もしも年若く、力量にすぐれた武士であっても、厚い金物を用いた重い甲冑や、大きな指物、立物、といった装備をすべきではない、なぜならば、小身の武士においては、甲冑を度々作り替えるなどということはできないから、若い盛りの力量に合わせて用意した甲冑では、年をとってからの役には立たなくなるからである。また、いかに若いときとはいっても、陣中で病気に掛かったり、負傷したりすれば、たとえ薄い金物の甲冑であろうとも肩に食い込み、苦労をするものである。こういうわけで、重い甲冑は好ましくないというのだ。
また、大きな指物や立物についても、若い時分から出陣のたびにこれを使用して、世間の人たちから知られてしまえば、年をとって重く、苦労になってきたからといって使うのをやめるというわけにはいかないから、見合わせよというのである。最後に、甲冑を作らせるについて、一つの心得がある。それは甲冑というものは、籠手と兜さえ念入りに作っておけば、それ以外は普通の仕立てであっても、一段と見ばえのよいものである。とりわけ兜については、鉢もおどし毛も、立派なものを用いるようにしたい。なぜならば、戦場では勝負は時の運であり、討死を遂げる場合もあり、そうなれば兜も自分の首と一緒に敵の手にわたることとなる。そして敵方では、子孫に至るまでもこれを持ち伝え、語り草とするものであるから、わが武勇の誉れを末永く世間の目に見せ、口にのぼせる器として、兜はただ一つのものとなるからなのである。》


具足一揃いを支度するに計画を具体的に教えている。
その場合、三分の二を甲冑の代金にあて、残りを軍装一式、食料飲料用具等、いざというときになくてはならぬ小道具類を品の善し悪しにかかわらず甲冑と同時にひととおり用意するよう説く。
その際、年若く、《力量にすぐれた武士であっても、厚い金物を用いた重い甲冑や、大きな指物、立物、といった装備をすべきではない》という。年をとってからの役には立たなくなり、病気に掛かったり、負傷したりすれば、苦労をすることになるからだという。
《甲冑というものは、籠手と兜さえ念入りに作っておけば、・・・》《兜については、鉢もおどし毛も、立派なものを用いるようにしたい。》という。何故なら《兜も自分の首と一緒に敵の手にわたること》があり、《わが武勇の誉れを末永く世間の目に見せ、口にのぼせる器として、兜はただ一つのものとなる》という。
働きに必要で、分に応じた装備を調えることが求められた。分に過ぎた華美重装備は負担になるから慎むという事だ。常に、死後何を残すかを考え、将来に配慮し行動していたという事である。
果敢ない人生ではなく、武士として果敢に生き抜いた証を残すことを名誉としたということである。

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